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師長のまなざし その10 国境を越えて
国境を越えて

 日頃、国境を越えてという事を意識する事はあまりなかった。それだけ私の周囲は同じ国籍の集団で平穏に暮らしているのかもしれない。先日、国境を越えてという事を改めて考える機会が遭った。NHKの番組でソウル市での喉自慢大会に応募された方の中から、ソウルからあえて日本の歌に関心を持たれたその思いを感動的に綴っていた。

その画面に映し出される喜びや愁い・・深く刻みこまれた戦争体験者の今なお続く反日感情、在日韓国人として日本から韓国へ住み着かれた家族の夫々の複雑な心境が滲み出ていたのを見て、私は遠い昔が甦ってきた。学童前に住んでいた伏木の港からそう遠くない町、そこは朝鮮の人々の行き交う場所だった。穏やかな平穏な日々に、隣に金山さん家族が引っ越してきた。私の両親は「隣は朝鮮の人やよ」と言った。それがどういう意味か、何を言わんとしているのかもまだ意識せずに過ごしてた。が、ある夕暮れ時の事だった。

仲良くなった金山さんの姉妹と私と近所の同世代の友達で、無造作におかれた材木置き場で誰が一番高い材木から飛び降りられるか競い合っていた。そこは子供達の格好の遊び場だった。金山さんの番になった。彼女は「一、ニの三!」と勢いつけて地面に降りた。が、聞こえてきたのは、「ぎゃー」と叫び声のような激しい泣き声だった。バランスを崩したのか、左肘から落ちてしまったようだった。遊んでいた私達も何事かとびっくりしてしまい、そうこうするうちに近所のおばちゃんたちが凄い泣き声を聞きつけて飛び出してきた。

金山サンチの両親は夜の仕事である。家は誰もいない。電話もない時代である。近所のおばちゃんたちで少し離れた駅前の整形外科病院までおぶって泣き叫ぶ金山さんを病院へ連れて行った。今でも憶えている。金山サンの両親がやっと駆けつけてきた時は、骨折の処置が終わりギプスを蒔かれた左腕が痛々しく肩からつられ、泣きつかれた表情だった。息せききって言った最初の言葉「誰が家の娘を突き落としたのか!」と。その剣幕にはびっくりだった。落としたのではない。

彼女が自分で降りたのだと何度言っても、なかなか聞き入れてくれなかった。こんなに近所のおばちゃん達が面倒みてくれてるのに・・・。子供心に、この子とは二度と遊ばない事にしよう・・。そう思った。私の母はぼそっと「本当にどうしてあの子落ちたの?アンタ達突き落としたんでないよね?」「ウン、競争していてあの子、自分で降りたんよ」母は納得した。その後言った一言「朝鮮人やから・・・」それが今でも鮮明に思い出される。仲良く遊んでいて普通の時はまったくなんでもない。

しかし何か事が起きると、コッチがビックリするくらい逆上して歯向かってくる。内面に沈静化させている事が、エネルギーが蓄積したら地震のごとく大きく揺らぎ爆発する感情の凄さを。それは“朝鮮”という響きが物語っていた。

 国境を越えて生活している人々には、それを経験しないと分かり合えない難しさがあると思う。国籍が違う事で日本の国家資格が取れないといつか訴えて場面があった。国境を越えて頑張っている人々は多い。難しい問題である。脈脈と引き継がれていくその人の血筋には今を生きていく事と先祖からの思想は、妥協をどこまで許すのか、あるいは共存していくことに挑戦していくのか、国際的な社会を目指す一つのハードルを感じる。
―国境に眼差しむけてー
                                                        若木さや
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