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乳腺症

監修:横浜新緑合病院 外科  井原 寛

乳腺症は「おっぱいの老化現象」で一般的な病気ではありません。年齢に伴うホルモンの不均衡による器質的変化です。妊娠中絶や出産経験が少ない、授乳経験がない人などに多い傾向があります。またストレスや食生活も影響を与えるようです。
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どんな病気

乳腺症は年齢に伴っておこる性ホルモンの不均衡による生理的変化で病気ではありません。
おっぱいの加齢に伴う変化、更年期および老化現象をきたしてくる正常な過程からやや外れた変化で、外来での乳腺の異常では最も多いものです。
 乳腺症と呼ばれる状態が性ホルモンのどのような不均衡によるのか、なぜこのような変化をきたすのか、はっきりとは分かっていませんが、相対的なエストロゲンの過剰が原因の一つと言われています。乳腺症はさまざまな名称でよばれ、定義がはっきりしていません。
 乳腺症の組織を顕微鏡でみますと、増殖性と退行性(乳腺をつくっている組織が増殖する性格と退化する性格が同じ舞台に乗っている)がいっしょになっている状態なのです。

 乳腺症を理解する上でわかりやすい概念があります。ANDI(アンデイ)といわれます。
Aberrations of Normal Development and Involutionの頭文字A、N、D、IをとってANDI(アンデイ)と略したものです。
 女性の乳腺はこどものときから成熟した乳腺へ向けて発達(Development)します。また乳腺は月経周期にともないホルモンの影響を受けて周期的な変化を繰り返します。このような正常状態とされる発達や変化からすこしずれることをAberration(逸脱)といいます。また、発達してきた乳腺がある年齢から退行性変性、退縮と呼ばれる状態、つまり衰えることをInvolution(退縮)といいます。正常の乳腺の発達からはずれた状態および衰えた状態のことです。女性におけるさまざまな体の変化、閉経前の生理的変化や、月経前後の変化、授乳の前後の変化と関連した乳腺の変化なのです。しこりのように触ることも痛みを訴えることも異常としてとらえられますが、このような女性の体におけるホルモン環境の変化による生理的な症状なのです。英語の表現のほうがわかりやすく、乳腺症はdisease(病気)ではなくchange(変化)とかdisorder、aberration(正常の秩序からはずれた状態)なのです。

 乳房の発達・・・男性も女性も乳頭と乳管をもっています。思春期になると女性は腺葉が発達して、おっぱい分泌準備のため成人の乳房になります。男性は腺葉ができません。乳管も腺葉もホルモンの影響を受けます。お産をしますと腺葉が非常に豊富になり乳汁が分泌されます。授乳中の乳腺は盛んな増殖をきたします。35歳ぐらいを過ぎるとほとんどの人は子育てをおわり、おっぱいを分泌する必要がなくなり、発達した乳房はだんだん退縮します、腺房がなくなるとそこは線維組織でうめられ、若いころのプリンプリンからゴツゴツとしたひなびた乳房となります。そして、閉経すると乳腺は退縮し消失していきます。

 思春期、青年期は15(初潮から)−25歳の間を早期の妊娠出産時期といいます。乳腺症の変化の一つである線維線腫を認める時期です。線維腺腫は現在、乳腺の形成、発達の過程での異常によってできたものとされています。非常にホルモンに反応しているものと考えられており、20歳前後に多く、年齢がすすむと発症頻度は低下します。線維線腫は現在正常発達からずれた状態と捉えられています。
 25−40歳の間は成熟した妊娠出産時期で、乳房痛、nodularity(しこりのように触ること)を認めます。非常に限局するものはしこりとしてさわり、乳房全体の線維化が進み、すじがめだつようになるとごつごつと触るようになります。

 壮年期は、35−55歳の退縮期とされます。小さな袋をつくるようになり(のう胞形成)、しこりとして触ることがあります。乳管の退縮により乳管がのびて乳管拡張をきたす場合があります。これによる症状のひとつに乳頭分泌があります。

 閉経後の老年期には乳腺は退縮、消失してくるので、乳腺症とか線維線腫とよばれることは少なくなります。

 以上のような年齢的変化をきたす過程でのさまざまな症状をとらえて乳腺症としてあつかいます。
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どんな症状

 30−40歳台女性の生理の前に症状がでやすようです。生理が始まると症状がおさまります。どうして生理の前に症状が出やすいのでしょうか?
 乳腺に影響するホルモンにエストロゲンとプロゲステロンがあります。エストロゲンはおっぱいを運ぶ管(乳管)とおっぱいの骨組みである間質を増加させ、プロゲステロンは乳汁をつくる部分に作用します。エストロゲンが多くなるとおっぱいが大きくなります、生理前におっぱいが張るのはこのためです。症状は以下のようなものが多いようです。
○乳房がはる
○乳腺の痛み:どちらかと言うと鈍い痛みです。
○しこり:両側同時にみられることが多い(片側だけのこともあります)。形もさまざまで、大小複数の玉のようなしこりとして触れます。
○乳頭の分泌物

 このような症状は生理と関連し変化します。一般的には生理が近づくとしこりが大きくなったり、痛みがでるようになり、生理がはじまると症状が軽くなります。
どのような人に多いのか
 一般的に言われていることは
○妊娠が中途で中断したことがあるひと。妊娠中絶をしたり、流産をくりかえしていたひと。
○出産回数がすくない人
○母乳をあたえなかった人(授乳経験がない人)、授乳期間が短かった人、生理不順な人、排卵のない人。
○ストレスが多い人
○脂肪摂取量が多い人
上記のような方に乳腺症が多いようです。

がんが発生する危険性は?
 乳腺症のしこりだと思っていてもがんを合併する危険性はあります。しかし、乳腺症に関連したものか、そうでないのかは不明なことが多いようです。乳腺症のかたに乳がんが発生する確率は正常の乳腺に発生する場合とほぼ同じといわれていますが、乳腺症のなかにはがんを発生してくる危険性をひめた病変をしめす場合もあります。
 病院で乳腺症といわれた場合はとくに悪性を思わせる所見はないと理解して良いでしょう。がんを疑うようなしこりがある場合は積極的に診断を受けることが必要です。乳腺症にみられるのう胞の内腔に腫瘤性病変を認める場合は摘出して検査する場合があります。乳腺症といわれてもしこりがだんだん大きくなったり、硬くなるようなときはきちんと診断を受けましょう。乳腺症と診断されてもすっかり安心しきってしまうのはよくありません。
年1度は定期的な乳がん検診を受けることが大切です。
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どんな診断・検査

検査の目的は悪性の病変が合併していないかを確かめるために行います(乳がんの項目も参照して下さい)。

〇マンモグラフィー:乳房専用撮影装置
 乳房のためのレントゲン検査で、乳房をはさんで上からみたものと、横からみた写真をとります。小さな白い粒(微細石灰化)がないかをみます。さわって分からない小さなしこりやしこりを作らない病変を映し出すのに有効です。

〇乳房超音波検査
 超音波を乳腺などの組織にあてて、その信号を画像としてモニターに映し出す検査です。乳房やその周囲にしこりや腫れたリンパ節がないかを調べます。

〇針生検
 細い注射用の針を用いて行う場合と太い針を用いる場合があります。これは乳房のしこりに針を刺して組織をとり顕微鏡でみる病理検査です。皮膚を少し切ってしこりを摘出することがありますが、これは針生検で確実な診断が得られない場合に行います。以上のような検査を行います。
どんな治療法

 ほとんどの場合、特別な治療は必要ありません。のう胞性変化が大きい場合は針を刺して内容を吸引することにより症状が消失することがあり、同時に内溶液の病理検査を施行することができます。
 疼痛がとても強い場合はホルモンを使用(エストロゲンを抑えるダナゾールと言う薬)することがあります。一時的に痛み止めの内服が有効のこともあります。
 軽度の痛みにはお茶などのカフェインを控えるとよいとする報告があります。ブラジャーでの乳房の固定も疼痛緩和には有効です。
どんな予防法(気をつけること)

 エストロゲンの過剰をおさえる方法として自制可能な注意すべきことは、
○ホルモンバランスをよくするために規則正しい生活をすること。
○生理前にはだれでもエストロゲンが過剰になりますが、ストレスがあるとエストロゲンが過剰になるといわれていますのでストレスを避けるようにします。
○カフェインの過剰摂取、過度の脂肪の摂取はエストロゲンを増加させるといわれていますので、ひかえるようにします。
○海草のヨード摂取がエストロゲンを減少させるといわれています。適度な海草類の摂取を心がけるようにします。
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